朝日総合法務事務所のサイトです

   私は、昭和49年に司法書士試験合格、昭和50年に上尾市内（現在の桶川には、平成５年に移転しました）で開業しました。
   その当時は、不動産登記が主でした。
   司法書士にいわゆる代書屋さんという言葉がまだ使われているときでした。
   私は、高邁な理想があったわけではなく、その当時女性が就職しても男性との差別は経験しなくてもわかるような社会状況でしたので、何か資格をと思って、本屋で立ち読みし、試験問題を見たところ、これなら何とかなるのではとの思いで受験したわけです。

   開業してもじっと待っていても仕事はない、という時期もありましたが、事件を選ばず何でも相談して下さい、というスタンスでやっていると事務所は何とか成立つようになるものです。
   そして、あんなに法律を勉強したのに、代書屋さんの名称では不満足で、また仲間がほしいという気持ちから、「司法書士も法律家だ」と世間に認められようと頑張っている「青年司法書士連絡協議会」（以下「協議会」という）に入会させてもらいました。
   協議会は全国組織で、全国各地で総会、研修会を行って勉強していました。

   法律家であれば、社会問題にも目を向け、困った人の救済をしなければ、という芽生えもでて、昭和58年当時、サラ金に負われ、借金苦で自殺、夜逃げとのマスコミ報道に関心を持つようになりました。
   既に協議会のメンバーの中には、全国の弁護士たちがこの問題を解決すべく活動をしていた会議に参加している者もいました。
   その中に私も引き込まれるように入って行きました。
   私自身が多重債務者と向き合うことになるのは、少し後になるのですが、全国の悲惨な状況を知ってこれは知った者の責任として法律家を自負するのであれば、法律家としてできることに携わらなくてはならない、と思っていった次第です。

   私は、どんな相談であれ、私が少しでも役に立つのであれば、来る者は拒まずというスタンスで業務をやっていましたので、自然と多重債務者の相談も少しずつ、増えていきました。
   平成元年のころからです。
   多重債務者の相談を受けるたびに、法律的には解決できても、その後の生活改善等は、一人ぼっちになっている当事者には難しい、と思われる人が大半でした。
   そんな思いから全国では「被害者の会」として、既に設立しているところがありました。
   そこで、埼玉でも「夜明けの会」が立ち上がりました。
   平成9年6月です。司法書士が世話人となり、その事務局長に私が選任され、夜明けの会の事務所を私の事務所に置き、それ以来改選もなく、事務所の移動（増改築はしたけど）もなく今に至っています。

   この問題を知れば知るほど、いろんな問題が浮上してきました。    高金利、過剰融資、過酷な取立（これを３Ｋと読んでいました）で貸せば貸すほど、サラ金が儲かる仕組みになっていて、それを許している法律があり（これはだんだん裁判で崩れていく）、仕組みに嵌った多重債務者被害があり、というように真面目な人ほど借りたものは返さなければと焦って、借りてでも返す、という悪循環の中に被害がどんどん広まって行った、それに追い打ちをかけるようにヤミ金業者が現れ、サラ金から見放された人たちが今度はヤミ金業者から借りる、ということになって行ってしまったのです。
   ヤミ金業者は犯罪者なのに、警察は「その利息を知って借りたのではないか」、と民事不介入と言って取り合わなかったりで、被害がどんどん広がって、ヤミ金被害者が多く相談に来た夜明けの会の事務局長である私はその真っただ中に置かれることになったのです。
   事務所の前にヤミ金被害者の相談者が勝手に入って来られ、一時事務所内が混乱し、一般事務が停滞するという時期もありました。
   平成１３、４年ころから、こんなひどいことになっている高金利はなんなのだ、返せない人に貸す業者もおかしいのではと、高金利を引き下げる運動、ヤミ金撲滅運動に、夜明けの会の被害当事者と共に携わることになりました。
   もちろん、先頭には、弁護士がいて、それに賛同する司法書士が目に見えて多く生まれていきました。

   詳細は別（全国ヤミ金融・悪質対策会議）の資料に譲るとして、法律を変えるには、その被害者が表に出て訴えなければ、容易に変わるものではない。
   それに貢献をしたのが、夜明けの会の被害者たちでした。彼らはマスコミに実名で顔を出し、被害を訴えた。
   金融庁のヒアリングも受けた。ヤミ金を訴えた訴訟では、またこれも実名を出し、やくざ相手に損害賠償訴訟の原告になった（吉田手記）。
   夜明けの会の被害者は、全国のこの運動に携わる法律家たちからゆるがぬ信頼を得た、と言っても過言ではありません。
   特に埼玉のヤミ金弁護団の弁護士とは、過去１５回、一緒に埼玉県警にヤミ金業者を告発し、マスコミにも報道され、同士とも言える存在になっています。
   私はこのような闘いの真っただ中でほんとうに、生きた勉強をさせてもらいました。
   集団で訴訟をすることが、こんなに大変なことなのか、また法律を変えるということはこういうことなのか、と実感した次第です。
   お陰で私も金融庁のヒアリングを受け、貸金業法改正の下準備の段階から携わることになりました。
   初めての経験です。この時、さすがに弁護士は法律家だなあ、と今さらながら感心した次第です。
   被害当事者もほんとうに真剣に自分たちのことを考えてくれる法律家がいることを感じ、共に闘っているという実感がもてたから、素直に自分たちの体験を述べることができ、貸金業法の改正が成功したと思います（国会前写真）。
   ヤミ金訴訟も最高裁で払ったお金は全部戻るという判決を得たのです。
   最後まで被害者と法律家は協同作業だったと思います（最高裁前写真）。

   このような闘いをしているうちに、私は、多重債務関係の仕事を多く受けることになった次第です。
   敷居が高い法律家にアクセスすることが当事者にとってどれほど大変なものか等勉強させられました。
   多重債務の当事者によく怒られました。
   当事者に「だから、法律家はだめなんだ、人の気持ちがわかっていない、だから、相談できないんだ。」
   私は「えっ、こんなに相談のろうとしているんじゃない、なんか傷つけるようなこと言った？、それは何、何？ごめん」
というような会話から始まるのですが、私も経験ないことはわりとズバッと言ってしまう癖があるので、説明を聞くと、「そうなのかあ、改めてごめん」というようなことで、やっぱりどこかに上から目線で話しを聞いているところがあったのかと反省しながら、謝っていました。
   ２０年近く多重債務問題に携わり、夜明けの会の当事者たちはこころを開いてくれ、いろいろなものが見えてきました。
   お金の問題はもちろんですが、精神的な問題も絡むことがわかってきましたが、この専門家のルートとのつながりがありませんでした。
   私は、今思うとゾッとするのですが、勝手に相談者を精神的な病気だろうと、判断し、病院につれて行ったことがあります。
   そしたら、即入院ということになりました。幸い問題にならなったから良かったのですが、絶対してはいけないことでした。
   何とかしたいという気持ちが先に行ってしまったことを非常に反省しました。

   貸金業改正後、国からの指導ではあるけど、改正法を実効性あるものにするため、県に多重債務対策協議会が設置され、その正式メンバーに夜明けの会も入りました。
   その後にできた自殺対策協議会には、前出手記の夜明けの会の吉田が多重債務対策協議会の推薦で自殺対策協議会の委員になりました。
   その後、自殺未遂の経験のある吉田の発言に、自殺対策協議会の委員の先生方（精神科医等）はびっくりされ、自分たちのところの患者さんも借金で悩んでいるかもと考えなければならない、ということになったそうです。
   そのようなこともあって、平成２１年暮に、埼玉県から夜明けの会に「相談会」の事務委託をしたい、との連絡を受け、とても大変だなと思ったが、これはやるしかない、とやる方向で夜明けの会の世話人、当事者と協議し、「暮らしとこころの総合相談会」の誕生になった次第です。
   平成２２年の４月からのスタートでした。それは、予想通り、大変で最初はとても混乱しました。
   しかし、当事者が受付をし、自分たちが相談窓口へ藁をも掴む思いで行った時のことを忘れず丁寧な応対をするので、大変評判が良い相談会になっています。
   県も目玉事業と言っています。

   多重債務者に携わったことで、日本の制度の恥部みたいなことがわかり、その制度を改正する、また直面している相談者の問題を解決することを他業種の専門家と連携しながら、これからもやって行こうと思っています。
   高邁な理想を持って司法書士になったわけではないけど、多重債務問題をやって行くうちに、自殺の問題が浮上し、自殺させないためにはと携わっているうち、自然とやることが広がって行きました。
   現在では奨学金問題にも携わっています。